なんらかのトラブルで、ある月の住宅ローンを銀行に支払えなかったとしても、そこでいきなり残りの金額をまとめて支払うことを迫られたり、家が競売にかけられる、といった事態にはなりません。
しかし、契約で定められた期間以上支払いが滞った場合や、破産した場合など、これ以上銀行にローンを返済することが不可能と判断された場合には、残債務の一括返済を迫られます。
しかし、銀行、あるいは銀行から債権を譲渡された債権回収会社などから残債務を請求されても、お金が無いから借金を返せなかったわけですから、多くの場合は大きな財産である家を売ることになります。
家を売るには二つの選択肢があります。競売と任意売却です。
競売の場合、債権者の申し立てを受けて、裁判所がその物件を売却します。
この方法には多くのデメリットがあります。
まず、裁判所への予納金などの費用がかかります。1億円の請求債権に対して150万円~200万円程度かかってきますから、これは無視できない金額です。
さらに、競売では一般的に売却価格が相場よりも安くなりがちで、売却までの時間も長くかかってしまうことが少なくありません。一方、任意売却とは、文字どおり債務者が自分で物件を売却する方法です。
この方法ならば競売よりも高めの額で売却できる可能性が比較的高く、しかも待ち時間も短くすむことが多いのです。
また、債務者であるあなたにとっても、突然「買い手が見つかったから出て行け」と言われかねない競売よりも、ある程度引っ越しの時期などを考えられる任意売却の方が楽でしょう。
その他に、競売の情報はインターネットで公開されてしまいますが、任意売却ならそうしたことはありませんから、自宅を売却しようとしている、という事実が他人に知られることも避けられる、という利点もあります。
しかし、家を売却しても返済しきれない場合には、抵当権が残ったまま売ることになってしまいます。これでは買い手が見つからないため、債権者と話し合って抵当権を抹消してもらう必要があります。
「任意売却」という言葉が使われるのは、主にこの場合です。
債権者としても、競売で安く売却されるよりは任意売却で高く売却される方が良いと考えますから、この取引に応じてくれる可能性は高いです。
そして、通常は家を売るとなればさまざまな費用がかかるわけですが、これを支払う手段が無い債務者の代わりに債権者がその費用を負担してくれます。
具体的には、不動産業者に支払う仲介手数料や弁護士などに支払う抵当権の抹消費用、マンションの場合は管理費や修繕のための積立金なども対象になりますし、細かいものでは印紙代なども含まれます。また、引っ越しのための費用なども負担してもらえることがあります。
このように多くのメリットがある任意売却ですが、もちろん売却額からこれらの負担額と競売での予想売却額を引いてもまだ損はしない、ということを債権者に示せなければ承諾をもらうことはできません。
また、売却後に残る債務をどのように返済していくか、といったことも話し合う必要があります。
こうした交渉は素人には難しいものです。
そのため、任意売却を自分で行わず、弁護士に依頼するという方法がおすすめです。
単純に高く売ってくれそうな相手に依頼したいのであれば不動産業者などの選択肢もありますが、こうした業者は弁護士とは違い、法律に関しては専門外です。弁護士のように売却後の債務の返済に関することまでは考えてくれませんから、すべて自分で判断することになります。
弁護士に依頼すると、債務整理もその弁護士に頼まないといけない、という誤解もありますが、もちろんそんなことはなく、これだけを依頼することも可能です。
弁護士にもそれぞれ得意な分野、不得意な分野がありますから、任意売却を考えているならその方面に強いことをアピールしている弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。