任意売却は債務者主体で行う手段です。ローンの返済がままならなくなった結果、財産の一つとして差し押さえられて勝手に家を売られてしまう競売とは違い、なるべく自分の都合のいい金額で売るということができます。
ひとたび競売にかけられてしまえば、自分の家でもそのやり取りに口を出すことができません。最低限ローンを返済できる金額で売りたいと思っても、金額は購入者と競売主催者が決定するもので、所有者であってもその意志が介入する余地がありません。債権者は多くの金額を回収することよりも、早く決着がつくことを望み売却を急ぐので、結果販売価格は市場価格の、半額にも満たないこともあります。
それが任意売却だと、自分で金額を設定した上で売るということができるので便利です。当然その金額で購入してくれるといってくれる購入者の存在が不可欠ですが、購入者の気持ちの後押しは行えます。家をきれいにしても設備を充実させても、全く意味がないものとは明らかに違います。
同じように家を手放すのなら、ローンの完済は何としても行いたい、可能な限り高額で取引をしたいという希望を、認めてくれるのが任意売却です。仮にそれが上手く進まなかったとしても、購入者が出るまで粘るのか妥協するのか、自分の意志で判断ができます。
任意売却には、債務者の認識と意思というものがいつもついて回ります。知らないうちに家が売りに出されることなく、知らない人に家が渡ってしまうこともなく、競売のように債務者が蚊帳の外に置かれたまま話が進んだりはしません。
強固なまでに債務者の介入を排除する競売と比べると、任意売却は柔軟です。家を売る金額から、引越しの日程まで、全ては債務者の希望に沿った形が進められることも珍しくありません。
よりメリットの大きい任意売却を行うためには、物件を購入してくれる購入者とのコミュニケーションに熱心に取り組んでいくことが重要です。せっかく交渉の余地が残されているのですから、それを最大限使って、より良い条件で家を手放せるようにしたいところです。
交渉次第では引越し資金を10万~30万くらい、物件の購入費用とは別に融通してもらうこともできます。引越し費用というのは、新しく住む家を見つけるために必要なお金ですね。債務者はローンの返済に、家を売却したお金の全てを当てなければならないことも多いので、その後住む家だけはしっかり見つけることができるように、敷金や礼金などを含んだ引越し費用を時に購入金額に上乗せしてもらえるのです。
ただ何もかも交渉次第となるので、スムーズに話を進められるように、あらかじめ交渉の材料となるものを用意しておくのが良いでしょう。
通常不動産物件を売る時には、不動産登記の費用や測量の費用、業者を利用する上での仲介手数料などがかかってきます。売却するにもお金が必要で、一つ一つは少額でも、合わされば売却価格の数%程度に及ぶような大きな出費になり馬鹿にできません。
任意売却も不動産売却であることは確かなので、それらの費用は当然かかってきます。通常の売却と違うところは、それを家を売却した金額から支払えるということです。いわゆる成功報酬のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。
このためローンの支払いに追われているという状況でも、任意売却は行うことができます。不動産会社に払うものだけではなく、手続きに動いてくれた司法書士に支払うものも同様にです。元手を用意することなく手段の利用が叶うのは、債務者にとって大きなメリットとなるでしょう。
仮にそうした費用を含めたトータルの債務を、家を売却したお金では払いきれないとなった時でも、任意売却自体が白紙に戻るということはありません。支払いの義務は生じますが、残ったローンとして、分割して返済していくことになります。不動産売却によって発生する費用が、売却の行為そのものを阻むことはないので安心して利用できます。