長年の低金利状態の慢性化により、住宅ローンの新規契約は人口推移の割には増加傾向にあると言えます。さらに消費増税や住宅ローン減税など各種の税制上の理由によっても、新規に住宅ローンを組もうと考える若い方が増えていますが、専門家の中には警鐘を鳴らす方もいます。
住宅ローンというシステムは基本的に今後給料が右肩上がりで上昇するという前提での組まれることになりますが、終身雇用が崩壊しつつある日本では非現実的な設定となります。さらに変動金利型の住宅ローンでは、こうした雇用リスク以外にも金利の上昇リスクも考慮しなければならず、常に住宅ローン破産という危険と隣合わせだという現実があります。
実際に住宅ローンの滞納による破産等の相談も増えており、今後の景気低迷期にもさらなる増加が懸念されています。
こうした住宅ローンの滞納時には通常住宅ローン債権は借り入れを行った金融機関から債権回収業者へと委託されることもあります。そのため今後の返済方針は債権回収業者と行うことになるのですが、多くの場合には競売を余儀なくされることになります。
マンションなどは物件価格の上下幅が大きく、またいち早くリスクのある債権の現金化を狙うので、債権回収業者側は競売での処分を狙います。
しかし、立地や築年数によってはマンションでは十分住宅ローンを完済出来るほどの市場価格を持っていることもありますが、割安で落札されることの多い競売では債務者にとって不利益が大きいことになります。
マンションの抵当権は金融機関から債権回収業者に移行している場合、基本的には債務者はこうした判断に抗う術はないのですが、場合によっては任意売却を行えることもあります。
任意売却とは抵当権が設定されているマンションであっても、債権回収業者の許可があれば市場取引を行えるという制度です。この任意売却を利用することによって市場価格に近い形でマンションを売却することが可能で、割安な競売よりもはるかに価格面ではメリットの大きな手法です。
しかし、通常マンションなど物件の売買には長期間かけて宣伝や交渉を行いますが、任意売却ではこうした期間を設けることは出来ません。多くの場合約半年ほどの任意売却期間が債権回収業者から設定され、債務者はこの期間内での市場売却を目指すことになります。当然半年という短い期間内のマンション売買は債務者にかなりの負担を強いることになりますが、場合によっては住宅ローンの完済だけでなく再出発の資金も手に入れることが出来る非常に魅力的なものです。
通常競売ではその利益の全てを債権者である債権回収業者への返済に当てることが必要ですが、任意売却では債権回収業者との交渉次第で分割返済や再出発の費用も捻出することが可能なので、債務者には是が非でも勝ち取りたい権利ということになります。
さらに、任意売却を行うメリットは他にもあります。通常競売を行う物件はその旨を裁判所で公示されるので、近所や親類の方に住宅ローンの滞納や競売の事実を知られるリスクがあります。しかし、自由売買である任意売却では、住宅ローンの滞納によるものであると気づかれる心配もなく、周囲の目を必要がないというメリットがあります。これは多くの経験者が語ることで、競売で自身の経済状況をさらけ出すというのはかなりの心的負担になります。
このように任意売却は競売に比べてもメリットの多い手法ですが、残念ながら全てのケースで適用可能な訳ではありません。根抵当権を持つ債権回収業者の許可が必ず必要になる場合は弁護士など仲介者を立てた上で粘り強く交渉を行って下さい。