個人再生の住宅ローン特則を利用できる要件を解説
債務整理の方法として知られる「個人再生」とは、裁判所を介して行われる手続きで、住宅ローン以外の借入金の返済が困難な場合に、借入額の一部を返済することで残りの借入金を免除してもらえます。
同じように裁判所を介して行う「自己破産」とは異なり、住宅ローン特則(住宅資金特別条項)と言われる制度を利用することで、自宅を手放すことなく一部の債務を免除してもらうことができます。返済額が多く、「全額を返済するのは難しいけれども自宅は守りたい」という方に対して有効な方法です。
今回の記事では大切な住まいを残すために利用できる、「住宅ローン特則」について、利用条件などを中心に詳しく解説します。
個人再生の住宅ローン特則とは
債務整理の方法は3つあります。任意整理・自己破産・そして今回解説する個人再生です。
任意整理は裁判所を介さずに行われる方法ですが、自己破産と個人再生はいずれも裁判所に申立てを行う必要があります。自己破産と個人再生の大きな違いの1つに、「住まいを残せるかどうか」が挙げられます。自己破産は原則として住まいを失ってしまう方法ですが、個人再生なら住まいを残す方法があります。この方法を「住宅ローン特則」(住宅資金特別条項)と言います。
住宅ローン特則では住宅ローンの減額はできない
個人再生では、原則住宅ローンは一切減額されません。そもそも住宅ローンは住まいを購入するために、高額の融資を受けて長期間かつ低金利で返済していく契約であり、その他の一般的なローンよりも好条件で提供されているサービスです。
しかし、任意整理でも個人再生でも住宅ローンの返済期間をさらに延ばしたり、毎月の返済額を変更することが可能です。
住宅ローン特則を使って住まいを守る場合、これまでと同様の金額で住宅ローンの返済を続ける必要があります。
ただし、裁判所の事前許可が必要となります。
個人再生には自己破産とは異なり免責という方法が無いため、その他の債務についても圧縮はできてもゼロになることはありません。住宅ローンの返済が続き、かつ圧縮したその他の債務の返済も行う必要があります。
個人再生は「将来的に継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」が利用条件の1つとされており、返済が大前提にある制度なのです。
他に個人再生を行う条件としては、以下のような条件があります。
・住宅ローンを除いた総借入額が5000万円以下
・小規模個人再生の場合には、債権者の数や債権額の2分の1以上の同意があること
・給与所得者再生の場合には、給与等の定期的な収入の大きな変動が見込まれないこと
住宅ローン特則が利用できる要件
住宅ローン特則を利用するためには、いくつか要件があります。
1.債務者が建物(住宅)を所有して、かつそこに居住していること(※一時的な転勤などは可の場合もある)
個人再生で住宅ローン特則を利用する際には、申立てをする債務者が建物を単独、もしくは共有している必要があります。例えば親名義の建物の債務を代わりに背負い、住宅ローン特則を利用することはできません。
また、居住用であることが条件のため、投資用不動産や別荘は対象外です。なお、土地については借地でも可能です。
■テナント兼住居ならどうなる?
所有している建物をテナント兼住居にしているケースなら、一体どうなるでしょうか。この場合、「床面積の2分の1以上が居住用」であれば住宅ローン特則を利用できます。例えば、1階が事務所、2~3階が居住用の建物なら要件をクリアしています。
2.対象となる債権は住宅資金であること(住宅資金貸付債権)
住宅の購入やリフォーム、建築、所有権や借地権の取得の際に借り入れをしたローンでなければ、住宅ローン特則の利用はできません。事業用ローンなどは認められないため注意しましょう。
ここで1つ、注意点があります。住宅ローン時の抵当権の設定登記の後に、住宅資金ではない抵当権が追加で設定された場合(例・事業用ローンの借入の際の担保)は、住宅資金特別条項の利用ができないのです。後順位担保権がある場合には、その債権者に「住宅ローン特則を利用したいから、外してほしい」と交渉する必要があります。
しかし、後順位担保権者が担保権を解除してもらえない場合は、担保権を持つ全ての債権者と別除権協定を結んで個人再生手続きを利用することが可能です。
3.保証会社が代位弁済をしている場合、6か月以内に手続きを開始すること
住宅ローンの返済に苦しみ、すでに滞納していて、保証会社が住宅資金貸付債権について代位弁済している場合、代位弁済された日から「6か月以内」に個人再生手続きを開始する必要があります。
代位弁済とは、保証会社があなたの代わりに全ての債務を金融機関に返済することです。あなたの返済義務が無くなったわけではなく、返済先が保証会社に移ったということを意味します。金融機関に代わり、今度は保証会社があなたに返済を請求してきます。
個人再生が利用できることが大前提
上記3つの条件に加えて、個人再生の計画自体に認可が下りる必要があります。そもそも個人再生の計画が裁判所に認められなければ住宅ローン特則は利用できません。
住宅ローン特則を利用できないケース
上記で触れたように、住宅ローン特則には要件があります。要件を満たしていなかったり、個人再生の手続きが裁判所に認められなかったりした場合、そもそも住宅ローン特則は認められません。
住宅ローン特則が利用できないケースを以下6つに分けて簡潔にまとめます。
1.個人再生手続きが認められない
個人再生を適用するためには、「継続的で安定した収入」を得ている必要があります。裁判所は再生計画を厳しくチェックしています。病気や失業等が理由で返済に苦しんでいる場合でも、継続的な返済に耐えられる収入が無いと、個人再生は認められません。
2.住宅ローン以外の抵当権、差し押さえがある
事業用の融資を受けるなどの理由で住まいを担保にしている場合、住宅ローン以外の抵当権が付いていることがあります。また、税金の滞納などの理由で、住まいがすでに差し押さえされているケースもあります。
住宅ローン以外の抵当権や差し押さえがあると、住宅ローン特則の趣旨にそぐわないため、対象外となります。
3.住宅ローンの代位弁済から6か月以上の経過
住宅ローンの返済が滞り、保証会社が代位弁済し、6か月以上が経過した場合には住宅ローン特則は利用できません。個人再生は申立てまでにさまざまな種類の書類を集める必要があります。
住宅ローンの返済に困った段階で、まずは弁護士に相談をしておくことがおすすめです。
4.住宅ローンに別契約の過去の住宅ローンが組み入れられている
住宅ローンの契約の中には、過去に別の住宅ローンを組んでいたものの、買い替えなどの事情で売却し、別の住宅ローンを組み直すケースが稀にあります。買い替えの際に、現在の住宅ローンにプラスする形でさらに新規の住宅ローンを契約する方法です。
この場合、過去の住宅ローン分が住宅ローン特則の趣旨にそぐわないと判断され、利用できません。
5.住まいの価値が高く、売却すべきと判断される
建物の評価がとても高く、住宅ローンの残債やその他の残債を合算しても、評価価格の方が明らかに上回る場合、住宅ローン特則は使用できません。住まいを売却すれば、債権者に対して返済ができるからです。
6.住宅ローンが無ければ住宅ローン特則は使えない
住宅ローンが無くても個人再生の制度を使うことはできますが、住宅ローンが無いのに住宅ローン特則を使うことはできません。つまり、住宅ローン以外の債務を整理したい場合には、住宅ローン特則は使えないということです。
例えば、住まいの評価が800万円、住宅ローン以外の債務が500万円ある場合で、返済に困っている場合には、住まいを売却して返済するしかありません。こういったケースでは、後でご紹介するリースバックの活用を検討されることをおすすめします。
住宅ローン特則が利用できない場合は、任意売却・リースバックの検討を
住宅ローン特則の要件が満たされない場合、もしくは個人再生が認可がされない場合には、住まいを守る方法はないのでしょうか。
また、個人再生を行う場合であっても、裁判所への予納金などの支払いが発生します。住宅ローン以外の借入金は減額されても、住宅ローンはこれまでどおり返済しなければならないため、支払えなくなってしまったら後は自己破産しか残されていません。
そこで、個人再生や自己破産以外にも、以下2つの方法があることを知っておきましょう。
任意売却
任意売却とは、住宅ローンが支払えなくなった場合に金融機関・保証会社などの同意を得て住まいを売却し、売却益を返済に充当する方法です。この方法は競売を避ける方法の1つです。
■競売との違い
一般的に任意売却の方が競売よりも高く不動産を売却できます。競売に至ってしまうと高額の遅延損害金などが上乗せされた債務が残されるため、自己破産に至るケースが多くなっています。
できるだけ良好な解決を目指すためにも、競売開始前に任意売却を行うことがおすすめです。
リースバック
リースバックとはセールス&リースバックの略称です。任意売却手続の中で住まいを守る方法の1つとして知られています。投資家など信頼できる第三者に住宅を売却し、購入した第三者と賃貸借契約を結んでこれまでと同様に住み続ける、という方法です。
住宅ローンの残債は残ることが多いですが、引っ越しをする必要はなく、契約後数年以内であれば買い戻しができる可能性もあります。
(リースバックについては、こちらで詳しく解説しています。「リースバックとは何?わかりやすく仕組み・メリット・デメリットを解説」)
まとめ
今回の記事では住宅ローンの返済困難時における解決方法の1つである「個人再生の住宅ローン特則」に焦点を当て、詳しく解説を行いました。住宅ローン特則には要件があるため、いつでも誰でも利用できるものではありません。
また、住宅ローン特則を使うとすぐに解決できるわけではなく、これまでと同様の住宅ローンと、認可された再生計画に沿って、債権者への返済を続ける必要があります。
個人再生は慎重に決断をしなければ、その後自己破産に至るケースもあります。まずは任意売却やリースバックも検討しましょう。個人再生や任意売却、リースバックに関しては、どうぞお気軽に弁護士法人リーガル東京にご相談ください。
監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
-コメント-
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