任意売却での親子間売買|メリット・注意点を解説
住宅ローンが返済できなくなった不動産物件がある場合、支払えないまま放置してしまうと債務が膨れ上がってしまい、自己破産に至ってしまう可能性があります。そこで、不動産を売却によって清算する方法があります。この方法を「任意売却」と言います。
任意売却は競売とは異なり、売却先や引っ越し日などを交渉によって決められますが、大切な住まいを失うことにもつながります。そこで、任意売却には「リースバック」と呼ばれる方法があります。「リースバック」とは、不動産物件を親族や投資家、企業などの第三者に売却した後も住み慣れた自宅に家賃を支払ってそのまま住み続ける事ができる方法です。特に親子間での売買であれば、そのまま住まう際にも負担感が少ないでしょう。
そこで、今回の記事では「親子間売買」する際のメリットや注意点について解説します。
任意売却での親子間売買は可能
まず、任意売却について改めて触れておきましょう。
任意売却とは
住まいを購入する際には高額の資金を用意する必要があり、金融機関の審査を経て住宅ローンを使うことが一般的です。住宅ローンは毎月返済していく必要がありますが、様々な家庭の事情により、返済ができなくなってしまう場合があります。返済に行き詰まっているとやがて競売にかけられ、強制的に売却されるリスクもあります。
そこで、解決方法の1つに挙げられるのが「任意売却」です。債権者(住宅ローンの借入先である銀行などの金融機関)の了承を得て、住宅ローンの残金がある住まいを売却します。すでに返済に困っている場合には高額の返済資金を用意することは現実的に難しいため、手元にほとんど現金が残っていない家庭に関しては、危機を救ってくれる制度と言えます。
任意売却は親子間でも売買できる
任意売却は、競売とは異なり債権者が同意をしていれば売却先をご自身で決めることができます。不動産会社や投資家などの選択肢が考えられますが、実は「親子間売買」「夫婦間売買」をすることも可能です。親族間・夫婦間で住まいを売買すれば、売却した後も第三者への賃貸物件化されてしまったり、投資物件として売却されてしまったりするおそれは少ないと考えられます。これまでと同様に、大切な住まいで生活できます。この方法は第三者への売却である、リースバックとは分けて扱います。
(親子間以外の親族間における売買の場合、親族間売買とも言います。)
親子間売買のメリット
任意売却の方法の1つである「親子間売買」には、一体どんなメリットがあるでしょうか。メリットには以下4つが挙げられます。
1.これまでと同様に住み続けられる
住まいを親子間で任意売却すれば、その後第三者に売却されたり、賃貸化されたりするおそれは少ないでしょう。売却をしても、親子間での手続きに留まるため、周囲に売却の事実を知られる可能性も低いと考えられます。
親子間売買なら、自宅の所有権が親子間で移動するだけです。買い戻しをご検討されている場合も、わざわざ買い戻さなくても良い事になります。
2.引っ越しが不要
親子間売買ならそのまま住まいに残れる、ということは「引っ越しが不要」ということです。つまり、以下のような事態を避けられます。
・お子様の転校
・ご家族やご自身の転勤や転職
・周囲に住宅ローンの返済が行き詰まったことを知られない
・引っ越し資金の交渉や準備が不要
引っ越しをすると、お子様の通学先から転校せざるを得ない場合があります。また、ご家族や返済に行き詰まったご自身も、転勤や転職を余儀なくされる可能性があります。新築後すぐに返済に行き詰まった場合には、周囲に「なぜ引っ越しをするのか」と疑問を抱かせる場合も想定されますが、引っ越しが無ければ住宅ローンの返済に行き詰まったことを知られる可能性も低いでしょう。
任意売却に至っている方の多くは、生活資金にすら窮しているケースがあります。引っ越しが無い場合、引っ越し費用を売却先に交渉する、あるいはご自身で準備をする必要もありません。生活環境変えずに済むメリットは、とても大きいのです。
3.親子間は話が進めやすい
親子間売買は、現在の家計状況や任意売却が必要になった経緯について話をしやすいでしょう。親子間なら元々同居をしている方も多く、別の親族に依頼をするよりもスムーズに手続きを進めやすいのです。
4.競売ではないため周囲に知られない
引っ越しをしない親子間売買は、周囲に住宅ローンの返済に困ってしまったことを知られにくいですが、競売も回避できるため官報(※1)に住まいが競売に出されたことが載りません。不動産会社や投資家への売却時と同様に、任意売却のメリットを享受できます。
(※1)官報とは
官報とは、国が発行している機関紙のこと。自己破産や失踪に関する情報などが掲載されており、競売に関しても情報が掲載される。任意売却時には金融機関との交渉は必要になるが、裁判所を介する手続きではないため官報に掲載されない。
親子間売買の注意点
任意売却の手法の1つ、親子間売買のメリットは大きいですが、その一方で知っておきたい注意点もあります。注意点は以下の3つです。
1.売買金額について
■著しく低い売買金額
任意売却に至っている、ということは現在家計も含めてお金に苦しい状態の方が多いでしょう。親子間売買なのだから、安い不動産価格で売買したいと考えるかもしれません。しかし、著しく低い金額で不動産を親子間売買すると、贈与とみなされ多額の贈与税がかかるケースがあり、また債権者から詐害行為だとして訴えられる事もあります。
贈与税は税率も高く、重い課税、裁判など更なる苦境に追い込まれてしまう可能性も否定できません。
■不当に高い売買金額
では、不当に高い価格で売買するとどうなるでしょうか。高額の売却ができれば、その分金融機関に多く返済できる、と考える人もいるでしょう。しかし、不当に高い金額で売買をした場合でも多額の譲渡所得税がかかる場合があります。ですから、不動産市場の時価に近い金額で売買するしかありません。
2.住宅ローンが組みにくい
親子間売買の場合、買い手も個人となるため現金一括で購入することは難しいと考えられます。そのため、購入する側は住宅ローンを検討するでしょう。
しかし、親子間で自己所有の不動産を売却する場合、住宅ローンの審査に通らない場合があります。金融機関とローン保証会社との保証契約の中に、「貸付対象物件の売主が申し込み本人の配偶者、親、子のいずれかである場合、保証の対象とならない」という条項があるからです。この項目により、夫婦間や親子間の不動産売買には融資しないということが決められています。
親子間売買という方法に対しても住宅ローンを融資してくれる金融機関も少ないですが、あります。
もっとも金利が高めに設定されているので、利用する際には十分な検討が必要になります。
法的な観点や一般慣習上の観点で見ると、親子間や親族間の場合、不動産の所有権を移転する行為は本来相続か贈与である、と考えられています。そのため、容易に住宅ローンを使った資金の準備ができないのです。
■税制面のデメリットも
親子間売買は、税制面でもデメリットがあると知っておきましょう。住宅ローンの審査が通過しても、「住宅ローン控除などが受けられない」というデメリットがあるのです。親子間売買ではなく、不動産会社などへのリースバックを活用した方が良いケースもあるため、専門家に相談をしながら十分に検討する必要があるでしょう。
3.買主が将来住宅ローンを組めない可能性も
買主側が今回任意売却の手続きに応じて、住宅ローンを使って住まいを購入する場合、将来的にご自身の住まいも欲しいと願っても住宅ローンが組めなくなる可能性があります。
例として、親の住宅ローンの返済に困り、未婚の子が住宅ローンを使って親子間売買に応じた場合、結婚後に新たに住まいを購入しようとしても住宅ローンが残っている可能性があります。つまり、審査に通らない可能性が高いのです。ご家族全体の将来設計も見据えて、親子間売買を行う必要があります。
親子間売買の解決事例
リーガル東京では、親子間売買でお金に関する問題を解決できた事例がございます。
具体的な内容を、こちらでご紹介していますので、ぜひご覧ください。
「親子間売買・夫婦間売買の解決事例」
親子間売買以外の解決方法
親子間売買にはデメリットもある以上、その他の解決方法と比較検討しましょう。
リースバックと比較
冒頭にも少し触れましたが、任意売却の手法には「リースバック」(セールス&リースバックの略称)と呼ばれる方法もあります。リースバックとは、不動産会社をはじめとする第三者に住宅を売却し、その後賃貸契約を交わすことで同じ住まいに暮らす方法です。リースバック後は、買い戻しを行うことが条件となる場合があります。
引っ越しも不要ですし、賃貸化するためご家族が住宅ローンの審査に臨む必要もありません。賃貸化することで、固定資産税等からも解放されます。売買金額が低くなる可能性もありますが、贈与税などの課税を心配する必要もありません。
但し、リースバックは期限があります。買い戻しが出来なければ退去する必要があるため、デメリットを知った上で手続きに臨む必要があります。
(リースバックについては、こちらの記事で詳しく解説しています。「任意売却にリースバックを併用して住み続ける|メリット・デメリットを解説」)
分割返済と比較
親族間売買を検討しても住宅ローンの審査に難航することが予想されます。この場合、買主側となる親族が売買代金を分割で支払うことにすれば、売買契約を成立させることも可能です。しかし、住まいの分割購入は高額の返済を何年も続けるリスクがあります。長期間にわたって返済しているうちに、親が亡くなり相続が発生する、返済している子の収入が途絶えてしまう等のトラブルも考えられます。さまざまなリスクを想定した上で、分割返済を決定する必要があるのです。
まとめ
今回ご紹介した親族間売買は非常に複雑な手続きであり、資金の準備や税制にも目を向けながら検討する必要があります。
ご家族だけで決断することは難しい手続きのため、専門的な知識を有する弁護士へのご相談をおすすめしています。
リーガル東京では親子間売買はもちろん、任意売却全般のご相談に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
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