個人の自己破産とは?手続きの流れ・メリット・デメリット等をわかりやすく解説

自己破産は、借金の返済が困難な場合に、裁判所を通じて返済義務を免責してもらう制度のひとつです。
しかし、自己破産にはメリットだけでなくデメリットもあるため、制度を利用する前に、裁判所を通じた手続きの内容や流れを理解しておくことが大切です。
そこで今回は、自己破産とはどのような手続きなのか、またその流れやメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
借金の免除と免責とは意味が違う?
借金の免除とは債権者が債務者に対して借金を払わなくていいという意思表示をすることで、借金の支払い義務が無くなる事を意味します。
借金の免除は書面で残すことにより借金が免除された証拠になります。
借金の免責とは自己破産の場合、裁判所によって借金返済が強制されないという、法律効果が付与されることを意味します。
したがって免責では、債務者が任意に返済すれば、有効な返済になりますが、借金の免除の場合はうっかり支払っても取り返すことができます。
個人の自己破産とは
自己破産とは、裁判所への申立てを通して、抱えている借金の返済義務を免責してもらう手続きのことです。借金の返済が困難になった時に検討される、債務整理の一手段に当たります。
自己破産は、税金や罰金などを除き、ほとんどの借金が免責されるのが特徴です。ただし、借金を免除してもらうには、原則として自分の財産を手放さなければなりません。
自己破産は、基本的には、継続的に返済できる見込みがないと裁判所が判断した場合に認められます。
個人の自己破産が認められるための条件
自己破産を行うには、法律上いくつかの条件を満たす必要があります。ただし、すべてを最初から満たしていなければならないわけではなく、手続きの段階ごとに異なる条件が求められます。大きく分けて、次の2つのポイントが重要です。
【1】破産手続きを始めるための条件:支払不能であること
まず、自己破産を申し立てるためには、借金の返済が継続的に困難な「支払不能」の状態である必要があります。これは単なる一時的な資金不足ではなく、今後も返済を継続する見込みがないと判断される状態を指します。
支払不能かどうかは、借金の額や収入、保有する財産などを総合的に見て裁判所が判断します。たとえば、収入が少なくても高額な資産を持っていれば、「支払不能ではない」と見なされる可能性もあります。
【2】借金の免責を受けるための条件
破産手続きが開始された後、最終的に借金を免責してもらうためには、以下の2点が重要です。
・原則として、「免責不許可事由(借金を帳消しにできなくなるような行為)」に該当するような行為がないこと(例:財産の隠匿や浪費、不誠実な借入など)
・ただし、免責不許可事由に該当していても、裁判所の判断により裁量免責(事情を考慮して特別に借金を免除すること)が認められる可能性もあります
このように、免責の可否は、破産手続き開始後に裁判所が慎重に判断することになります。
【補足】自己破産しても免責されない借金(非免責債権)
全ての借金が自己破産で帳消しになるわけではありません。法律で「非免責債権」とされている借金については、破産しても支払い義務が残ります。主な例は以下の通りです。
・各種税金
・社会保険料(健康保険料や年金保険料など)
・不法行為による損害賠償(悪意で加えたものや、故意または重過失で人の生命または身体を害したもの)
・養育費・婚姻中の生活費
・罰金などの刑事罰
これらの債務は、破産後も原則として支払い続ける必要があります。
ただし、税金などについては課税側に免除して貰えるケースもあります。
なお、次の章では、「免責不許可事由」とされる具体的な行為や、その注意点について詳しく説明します。
免責不許可事由に該当する行為
自己破産にあたって、免責不許可事由には以下のようなものがあります。
・財産の隠匿や損壊
・換金行為(ショッピング枠の現金化など)
・偏頗弁済(特定の債権者だけに返済すること)
・詐術による借り入れ
・不当な借入れや違法な契約による借金
・ギャンブル・浪費
・帳簿の隠匿
・裁判所に対する虚偽の書類提出や説明
・管財人の業務妨害 など
これらは、自己破産に関する法律(破産法)で免責不許可事由として定められており、該当する場合は、原則として免責が許可されません。しかし、裁判所の裁量で免責が認められることもあります。
自己破産の種類
自己破産は、大きく次の2種類に分類されます。
・同時廃止事件
・管財事件
ここからは、それぞれの特徴についてご説明します。
同時廃止事件
破産手続きを開始すると同時に、債務者の財産を管理・処分する破産管財人(裁判所が選ぶ第三者の専門家)を選任せずに手続きを終了するケースのことを「同時廃止事件」と呼びます。
これは、債務者が処分すべき財産を保有していない場合に適用されるものです。破産管財人の選任は行われず、手続きは書類のみで完結するため、管財事件と比較すると時間やコストはかかりません。
管財事件
債務者に一定の財産が残っていて、それを使って借金の一部でも返済できる場合には、「管財事件」という手続きになる事が多いです。
法人が破産する場合は、原則として「管財事件」として扱われ、裁判所によって破産管財人が選任されます。また、法人の代表者が個人として破産する場合も、財産関係の調査が必要となるため、多くの場合で管財事件となります。
さらに、免責不許可事由が疑われる場合も、管財事件となることがあります。
管財事件は、同時廃止事件に比べて長期化する傾向があり、時間や費用がかかる点に注意が必要です。
管財事件には、「通常管財(大規模案件向け)」と「少額管財(小規模案件向け)」の2種類があります。
通常管財では、手続きや調査が複雑になるため、少額管財よりも多くの時間やコストがかかります。
個人の自己破産の手続きの流れ
自己破産の手続きは、以下の流れで進められます。
・弁護士への依頼・受任通知の送付
・資料の収集と書類作成・裁判所への破産申立て
・破産審尋
・破産管財人面接 ※管財事件の場合
・破産手続き開始決定
・免責審尋
・免責許可決定
各手順を詳しくみていきましょう。
1.弁護士への依頼・受任通知の送付
まずは、弁護士に相談し、契約を締結して委任を行います。弁護士への依頼は必須ではないものの、自己破産の手続きは専門性が高いため、弁護士に手続きを委任するのが一般的です。
依頼を受けた弁護士は、まず債権者に受任通知を送付します。これにより、毎月の返済および債権者の督促を止めることが可能になります。
2.資料の収集と書類作成・裁判所への破産申立て
次に、裁判所の申し立てに必要な資料は以下の通りです。
・申立書:破産手続開始を求めるための書類
・陳述書:破産に至る経緯などを説明する書類
・債権者一覧表:債権者の氏名、住所、借入額などをまとめた表
・財産目録:破産者の財産を詳細に記載した目録
・住民票:申立人の住所を証明する書類
・戸籍謄本:申立人の戸籍を証明する書類
・収入を証明する資料:給与明細、源泉徴収票、賞与明細など
・支出を証明する資料:預金通帳、家計簿など
・資産に関する資料:不動産登記簿謄本、保険証書、車検証、有価証券など
・借入に関する資料:借入明細書、ローン契約書など
書類作成は基本的に弁護士が行いますが、住民票や収入に関する資料、財産に関する資料などは債務者自身が用意する必要があります。
書類が揃ったら、債務者の居住地を管轄する地方裁判所へ破産の申立てを行います。裁判所費用は、このとき支払います。
3.破産審尋(はさんしんじん)
破産審尋とは、裁判官による債務者の事情などを確認する面接のことです。破産申立て後には、破産審尋が行われる場合がありますが、裁判所や事案によっては省略されることもあります。破産審尋では、自己破産に至る経緯や資産状況、免責不許可事由の有無などについて質問が行われます。
破産審尋の手続きは、弁護士が代理で出席することも可能です。
また、実施されるタイミングは申立て後1カ月前後であることが多いですが、東京地方裁判所に限っては、3日以内に実施されるケースもあります。
4.破産管財人面接 ※管財事件の場合
破産管財人とは、裁判所によって選任される中立的な第三者で、破産者の財産を管理・換価し、債権者に平等に分配する役割を担います。
管財事件に該当する場合、申立て後に破産手続開始決定を受けて破産管財人との面接が行われます。債務者は財産や債務の状況について詳しく説明を求められます。
この面接では、財産隠しや偏った返済(偏頗弁済)がなかったかなど、免責不許可事由の有無も確認されます。破産管財人はその後、「破産手続に関する報告書」などの調査報告書を作成し、債権者集会などで報告を行います。
5.破産手続き開始決定
債務者が支払い不能の状態にあると裁判所が判断すれば、破産手続き開始の決定が出され、手続きが正式に始まります。
同時廃止事件の場合であれば、意見申述期間(債権者からの意見を求める期間)を経て、必要に応じて免責審尋(裁判官との面接)が行われることがあります。
管財事件の場合であれば、選任された破産管財人による財産の調査・処分の後、債権者集会(債権者が集まり、手続きの進行状況などを確認する場)が開かれ、問題がなければ免責審尋へと進みます。
6.免責審尋 ※管財事件の場合
免責審尋は、債務の免除(免責)を認めるかどうかを判断するために裁判所が実施する手続きです。
同時廃止事件の場合、免責審尋は実施されることがあります。管財事件では原則として実施されます。
免責審尋では、債務者が誠実に手続きに協力してきたか、免責不許可事由に該当する行為がなかったかが確認されます。基本的には形式的な面接で、弁護士が代理出席することも可能です。問題がなければ、最終段階である免責許可決定へと進みます。
7.免責許可決定
ここまでの手続きが終われば、裁判所による免責許可または不許可の決定が言い渡されます。免責許可決定は、約1〜2週間後に官報に掲載され、その後2週間の異議申立期間を経て法的に確定します。
免責許可決定が確定すると、自己破産の手続きは終了し、借金の返済義務が免除されます。
自己破産を行うメリット
自己破産を行うことのメリットとしては、次の2点が挙げられます。
・ほとんどの借金が免責される
・生活に必要な一定の財産は手元に残せる
自己破産が認められた場合、税金や養育費などの一部を除き、ほとんどの借金の返済義務が免責されます。同じ債務整理でも、任意整理や個人再生では一部の借金の返済義務が残ることを考えると、ほとんどの借金が免責される点は自己破産のメリットであるといえるでしょう。
また自己破産では、家や車など保有する財産を処分する必要がありますが、生活に必要な衣類や日用品、99万円までの現金などは手元に残すことができます。ある程度の財産を手元に残せる点も、自己破産の特徴です。
自己破産を行うデメリット
自己破産を行う際には、以下のデメリットに注意が必要です。
・高額な財産は処分される
・5年〜10年間はクレジットカードやローンの利用が制限される
・官報に氏名や住所が掲載される
・個人破産をすると一部の職業に就くことが制限される
自己破産を行うと、破産者が保有する自宅や車などの高額な財産は、債権者への分配のために処分される可能性があります。また、手続き後5年〜10年程度は信用情報機関に事故情報が登録されるため、クレジットカードを作ったりローンを組んだりすることが難しくなります。さらに、官報に氏名や住所が掲載されることもデメリットの1つです。
また、弁護士、司法書士、証券会社外務員、生命保険募集人、宅地建物取引士、不動産鑑定士、警備員などの特定の職業については、自己破産の手続き中に就くことが制限されます。ただし、この職業制限は免責決定後に解除されます。
自己破産を弁護士に依頼した際にかかる費用
自己破産の一連の手続きには法律の知識が必要であるため、弁護士に依頼して手続きのサポートを依頼するのが一般的です。
弁護士に依頼した際にかかる自己破産の費用総額は、おおよそ30万〜80万円が目安とされています。その内訳は、弁護士費用(相談料・着手金・報酬・日当)に加えて、裁判所費用や郵送代・交通費・印紙代などの実費が含まれます。
ただし、かかる費用は自己破産の種類や依頼する弁護士事務所、債権者数などによって大きく異なります。例えば、同時廃止事件の場合、かかる裁判所費用は1〜3万円程度ですが、管財事件になると50万円程度の裁判所費用が発生します。
具体的な費用については、弁護士への相談時に確認するようにしましょう。
このように、自己破産には裁判所費用や弁護士費用など、まとまったお金が必要です。多くの弁護士事務所では分割払いも受け付けているので、一括払いが困難な方は相談してみると良いでしょう。
まとめ
自己破産は、裁判所の免責許可を受けることで、原則として借金の返済義務が免除される法的手続きです。ただし、税金や養育費、罰金など一部の債務(非免責債権)は免除されません。
また、どのようなケースでも利用できるわけではなく、支払不能であることや、免責不許可事由がないことなどの条件を満たす必要があります。
メリットだけでなくデメリットがある点にも注意する必要があります。
適切な手段で問題を解決するためにも、借金の返済が困難になったときには、借金問題を扱う弁護士に相談することをおすすめします。弁護士の手を借りれば、債権者からの督促や手続きの負担も軽減することが可能です。
弁護士法人リーガル東京では、借金の返済が困難になった方の相談を受け付けています。実績豊富な弁護士が、最適な方法を提案し、手続きを手厚くサポートします。
借金にお悩みの方は、ぜひ一度お問い合わせください。
監修者

氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
-コメント-
弁護士法人リーガル東京は弁護士・税理士などの専門家集団です。当法律事務所に相談依頼するだけで、購入先紹介・売買契約締結交渉・残債務整理・登記手続・税務申告のワンストップサービスを比較的低額の料金でご提供致します。
この記事を見ている人はこんな記事も見ています
最近の投稿
