自宅を維持する債務整理の方法:「リースバックと自己破産の併用」「個人再生」「任意整理」を比較
債務整理とは、借金の返済が困難な場合に、借金の額を減らしたり支払いに猶予を持たせたりして、問題を解決する方法のことを指します。債務整理にはいくつかの方法があり、その選択によっては、住宅ローンの残った自宅に住み続けながら借金を減らしたり無くしたりすることが可能です。
今回は、「任意整理」「個人再生」「リースバックと自己破産の併用」の3つの選択肢を挙げながら、債務整理を行いつつ住宅ローンが残っている自宅に住み続ける方法について解説していきます。
住宅ローンがあっても自宅に住み続けることができる債務整理
借金の返済が難しく債務整理を行う場合には、ひとまず住宅ローンのある自宅を売却しようと考える方が多いでしょう。しかし中には、住宅ローンのある自宅に住み続けながら、債務整理を行いたいと考える人もいます。
実は、住宅ローンのある自宅に住み続けながら、借金の債務整理を行うことは可能です。
ただしそのためには、適切な方法で債務整理を進めなければなりません。
通常、住宅ローンのある物件には「抵当権」が設定されています。これは、対象の物件を担保とする権利です。もし住宅ローンの返済が滞った場合、債権者はこの抵当権を利用できます。物件を差し押さえ、競売にかけることで、未払い分を回収することが可能です。
このような場合、債務者は自宅を手放し、退去しなければなりません。
しかし、自宅に住み続ける方法もあります。そのためには、住宅ローンの返済を続けながら、他の借金について債務整理を行う必要があります。この方法を選べば、債務整理を進めながら自宅を守ることができます。
次に、その具体的な方法について詳しく解説します。
自宅に住み続けながら債務整理を行う3つの選択肢
住宅ローンを債務整理の対象にせず、自宅に住み続けながら他の借金の債務整理を行う場合、次の方法が有効です。
・任意整理
・個人再生
・リースバックと自己破産の併用
上記3つの方法について、詳しく解説していきます。
任意整理
「任意整理」とは、債権者に対し、利息の減額や分割払いの長期化などを交渉することで、借金の返済負担を軽減し、債務者が無理なく返済を続けられるようにする債務整理の方法です。利息分の支払いが減るとともに長い期間の分割払いになることで、債務者はそれまでよりも余裕を持って、借金を返済していくことができます。
任意整理では、裁判所を通さずに手続きを進めます。債務者は、整理の対象とする借金を自分で選び、弁護士を通じて債権者と交渉します。
通常は、住宅ローンは任意整理の対象にはいたしません。住宅ローンの返済が難しくなった場合、金融機関に返済条件の変更について交渉をすることを、まず、お勧めいたします。
金融機関との交渉がうまく行かない場合は、個人再生手続きなどの他の選択を検討してください。
任意整理はすべての債権者を対象にする必要が無いので、債務者が整理したい対象を選ぶことができます。
とはいえ、任意整理の場合、利息は減額するものの、借金の元本がなくなるわけではありません。この方法をとった場合、債務者は住宅ローンをこれまで通り返済しながら、他の借金の元本も返済し続けることになります。経済状況によっては、それが困難な方もいるでしょう。
個人再生
「個人再生」とは、裁判所の認可を受け、住宅ローンなど抵当債務以外の借金の元本を大幅に減額してもらう債務整理の方法です。裁判所が認可した場合、債務者は減額された借金を原則3年、最長5年で返済していくことになります。そのため、債務者は減額後の借金を返済するための再生計画を作成し、裁判所に提出する必要があります。
また、再生計画に「住宅資金特別条項」を組み込むことで、住宅ローンを対象外とし、これまでどおり返済を続けながら、他の借金だけを減額することが可能です。これにより、自宅を守りながら返済負担を大幅に軽減できます。
個人再生の大きなメリットは、借金の元本が大幅に減少する可能性がある点です。ただし、個人再生を行った事実が官報に掲載されることや、自動車ローンがある場合に車の返還を求められる可能性には注意が必要です。
リースバックと自己破産の併用
3つ目の方法は、「リースバックと自己破産を併用する」方法です。
リースバックとは、住宅を不動産会社や投資家に売却し、その売却金で住宅ローンを返済すると同時に、賃貸借契約を結んでそのまま住み続ける不動産取引のことです。この方法では、所有権を失うものの、賃貸契約を結ぶことで自宅に住み続けることが可能です。
対して、自己破産とは、裁判所の手続きにより債務を免責してもらう法的な制度です。
※免責とは、債務を完全に免除してもらうものではなく、債務の支払いを法的に強制されない、効果を付与させるものです。免責された債務でも任意の支払いは有効となります。
一定以上の価値がある財産は処分され、債権者への返済に充てられますが、生活に必要な最低限の財産は保護されます。ただし、手続きが官報に掲載されたり、信用情報に登録されたりといったデメリットがあります。
リースバックを利用した後に自己破産を行うことで、売却後に残った住宅ローンや他の借金が免除され、住み慣れた自宅に住み続ける選択肢が考えられます。ただし、自己破産手続きの中で、リースバックによる売却代金が時価相当額かどうかのチェックを裁判所や破産管財人から受けます。
したがって、リース契約の売買代金が、適正であることが求められます。
また、リースバックで結ぶ賃貸契約の条件や家賃支払い能力次第では、住み続けられなくなるリスクがあるため、慎重な対応が必要です。
3つの選択肢の特徴を比較
ここからは、前述した「任意整理」「個人再生」「リースバックと自己破産の併用」という3つの選択肢について、その特徴を比較していきます。
各手続き後の返済負担の重さ
手続き後の金額の返済負担の重さは、次の順番(重い順)になります。
1.任意整理(最も重い)
任意整理では、減額されるのは主に利息のみで、借金の元本は基本的に減りません。整理の対象外とした住宅ローンはこれまで通り支払う必要があるため、返済負担は大きく残ります。
2.個人再生
個人再生では、借金の元本が大幅に減額されるため、任意整理に比べて返済負担は軽くなります。ただし、減額後の借金と住宅ローンの両方を返済する必要があるため、一定の負担は続きます。
3.リースバックと自己破産の併用(最も軽い)
自己破産では、住宅ローンを含むほとんどの借金が免除されるため、返済負担はなくなります。リースバックを併用すれば、自宅に住み続けることも可能ですが、毎月の家賃が新たな負担となるため、生活費とのバランスを考える必要があります。
所有権を維持したい場合は個人再生・任意整理
リースバックと自己破産を併用する方法は、手続き後の負担が最も少なくなる選択肢です。ただし、リースバックを利用した場合、債務者が自宅の所有権を失う点は、理解しておかなければなりません。
リースバックでは、売却によって、自宅不動産を購入した不動産会社に所有権が移ります。将来的に自宅不動産を買い戻す特約を付けることは可能ですが、買い戻しを行わない限り、その自宅不動産は資産として保有することはできません。
一方、住宅ローンを対象外にしながら任意整理や個人再生を行った場合、所有権は住宅ローンを支払い続ける債務者が持つことになります。住宅ローンが完済となれば、その自宅不動産は債務者自身の資産となります。
債務整理の方法の選択にあたっては、物件の所有権を保有し続け資産として手元に残したいかどうかも、重要なポイントです。
手続きの完了期間で比較すると任意整理が最も短い
3つの方法の手続き完了期間を比較すると、次の順番になります。
1.リースバックと自己破産の併用(最も長い)
リースバックは不動産会社に売却を任せることが可能ですが、売却代金など契約内容の確認や買い戻し特約の設定などで慎重な判断が求められます。また、自己破産は申し立てまでの準備として、申し立てに必要な書類の用意や、債務者の財産調査の期間には必要になります。リースバックをしている債務者は破産管財人が選任されるケースが多いので、免責確定(破産手続き終了)まで6ヵ月以上かかる事があります。
2.個人再生
個人再生では、申し立ての準備として、自宅不動産の査定や資産・収入・債務状況の資料収集など準備が必要です。
申し立て後、個人再生委員が選任されるケースが多く、再生計画認可までの期間が通常6ヵ月位です。
再生計画を策定し、裁判所に申し立てる必要があるため、手続きが複雑です。債権者や裁判所の審査も含まれるため、時間と手間がかかります。
3.任意整理(最も短い)
裁判所を介さず、債権者と直接交渉するため、他の方法に比べて手続きが簡単です。弁護士や司法書士に依頼すれば、大部分の手続きを代行してもらえます。
ただし、安易に任意整理をしてしまうと、債権者と和解した後の返済が難しくなるケースもあるので注意が必要です。
任意整理完了まで期間は債務額・債権者の数や金額により、差異が生じますが、通常2~3ヵ月位です。
まとめ
ご紹介したとおり、借金の返済が困難になっても、選ぶ債務整理の方法によっては、住宅ローンの残る自宅に住み続けることができます。
債務整理を行う場合には、「自宅に住み続けたい」「毎月〇円なら無理なく返済できる」「債務額を減らしたい」「早く解決できる方がいい」」など、希望と条件の優先順位を付けながら、適切な方法を選ぶようにしましょう。
リーガル東京では、不動産のリースバックに関する相談を受け付けています。リースバックは、債務整理の手段としてはもちろん、自宅の維持費軽減や資金調達、相続対策としても有効です。
不動産に特化した弁護士と税理士が連携することで最適なサポートを実施できるのが、リーガル東京の特徴です。
法律や税に関する相談も可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
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