リースバックで火災・損害保険に加入する必要はある?
「まとまった資金が必要だけど、今の家に住み続けたい」「ローンや税金の支払いが厳しいが、引っ越しはしたくない」という場合には、リースバックの利用が選択肢に上がります。
リースバックは、リースバック会社や不動産会社に持ち家を売却して資金を調達しながら、その家に賃貸として住み続けることができる方法です。
リースバックを利用した場合、住宅ローンの支払いはもちろん、固定資産税や建物のメンテナンス費用の負担は発生しません。
賃借人の継続的な負担は、家賃のみとなるケースが一般的です。
では、このようなリースバックにおいては、火災保険の取り扱いはどうなるのでしょうか。
賃借人が加入する必要はあるのでしょうか。
今回は、リースバック物件における火災保険の取り扱いについて、わかりやすく解説します。
火災・損害保険とは
火災・損害保険とは、万が一の住居の災害に備えるための保険です。
加入しておくことで、下記のような災害・事故により住居に損害が起きた場合に、然るべき補償を受けることができます。
・火災・落雷
・水災・風災・雪災・雹災
・水漏れ
・破裂・爆発
・盗難
・外部からの物体の衝突・落下
・暴動などによる暴力行為
その名前から「火災だけに備える保険」と勘違いしてしまう方は多いですが、実は火災・損害保険は、幅広いリスクに備えられる保険なのです。
また、火災・損害保険の基本的な補償対象となるのは、「建物」と「家財」です。
災害や事故で建物や家財が損傷した場合には、保険会社から保険金が支払われます。
ただし、補償対象や内容は保険の種類や契約内容によって異なるので注意しましょう。
火災・損害保険に加入するタイミング
不動産は、正式に引き渡されたタイミングで所有者の物となります。
それと同時に、不動産の損害の責任も所有者に発生します。
したがって、自宅を購入した場合には、その引き渡しまでに火災・損害保険に加入し、引き渡し日に補償が開始されるよう手続きを済ませておかなければなりません。
ただし、火災・損害保険の加入手続きには数日かかります。
引き渡しのタイミングで補償を開始させるためには、早めに手続きを進めておくことが大切です。
火災・損害保険に入らないとどうなる?
火災・損害保険は、強制加入の保険ではありません。
加入はあくまで任意です。
そのため、火災保険に入っていないからといって、罰則を受けるようなことはありません。
ただし、火災・損害保険へ加入しないということは、住居の損害に備えないということになります。
火災によって建物や家財が燃えてしまったり、水災によって浸水し建物や家財がダメージを受けてしまったりしても、火災・損害保険に入っていなければ、補償を受けることはできません。
その住居の持ち主は、自分自身で建物の修繕や建て替え、家財の買い直しを行うことになり、その場合の金銭負担は大きなものになるでしょう。
また、賃貸物件の場合には、賃貸借契約締結にあたって、入居者自身による火災保険への加入が条件とされることが一般的です。
もし保険に加入していない状態で借りている部屋に損害を与えてしまった場合、入居者は原状回復のための費用を自費で支払わなければなりません。
これは入居者にとっても賃貸人にとってもリスクとなるため、それを避けるためにも、火災・損害保険への加入が必須となっていることが多いのです。
火災・損害保険への加入は法的義務ではないものの、未加入には大きなリスクがあることを知っておきましょう。
火災・損害保険の補償内容
火災・損害保険の主な補償は、次の4種類に分けられます。
建物補償
建物の損害に対する補償です。
被保険者が所有する住居とそれに付随する建築物(門や塀、車庫など)、建物に備え付けられた建具や設備が補償の対象となります。
ただし、一戸建ての土地やマンションの共用部分は、基本的に個人の火災・損害保険の補償対象とはなりません。
家財補償
家財補償は、被保険者やその家族が所有する家財の損害に対する補償です。
火災や水災、盗難などによる家財の損傷が対象となりますが、自分の不注意による損傷は補償されない場合があります。
補償対象には、家具や家電、衣類、貴金属、自転車などが含まれますが、貴金属や高価な品物には補償額の制限がある場合があります。
借家人賠償責任補償
賃貸として借りている物件に損害を与えてしまった場合に備える補償です。
例えば、賃貸の部屋で火災を起こしてしまったり水漏れを起こしてしまったりした場合、入居者には原状回復の義務が生じます。
入居者が火災・損害保険の借家人賠償責任補償に加入していれば、この原状回復に必要な費用は保険から補償されます。
ただし、故意による物件への損害は補償対象にはなりません。
個人賠償責任補償
日常生活の事故に備える補償です。
他人の物を壊したり他人に怪我をさせてしまったりした場合に支払わなければならない損害賠償金を補償します。
具体例としては、自宅の塀が倒れて隣家を傷つけてしまった、水漏れを起こして下の階の部屋を水浸しにしてしまったなどのケースが考えられます。
また、自分の飼っている犬が他人に怪我をさせてしまった、不注意で店の商品を壊してしまったなど、住宅に関係ない事故でも、補償を受けることが可能です。
ただしこの補償も、故意による損害は対象にはなりません。
リースバックで火災・損害保険に加入する必要はある?
リースバックの物件でも、火災・損害保険に加入する必要はあります。
それは、災害や事故によりその物件が損害を受けた場合に、然るべき補償を受けるためです。
ただし、リースバック物件の火災・損害保険に加入するのは、その物件の元の持ち主である賃借人ではなく、その物件の現在の所有者であるリースバック会社や不動産会社です。
したがって、賃借人が保険料を支払って火災・損害保険に加入する必要はありません。
とはいえ、リースバック会社や不動産会社が加入するのは、その会社の所有物である建物に対する補償のみです。
家財や借家人賠償責任、個人賠償責任などの補償を受けたい場合には、賃借人は自分で火災・損害保険に加入する必要があります。
ただし、リースバック会社や不動産会社によっては、賃借人が加入する家財や借家人賠償責任、個人賠償責任に関する保険料を負担してくれる場合もあります。
火災保険の補償範囲(建物に対する補償、家財、借家人賠償責任など)や、その保険料の負担については、リースバック契約時に担当者によく確認しておくようにしましょう。
リースバックにかかる費用
リースバックでは、賃借人は建物の所有権を手放し、賃貸としてその建物に住みます。
そうすることで、建物の火災・損害保険料をはじめとした、建物にかかる費用の負担はなくなります。
そこで気になるのが、リースバックを利用するためにはどれくらいの費用がかかるのかということです。
建物にかかる費用の負担がなくなっても、リースバックの利用に多額のコストがかかれば、金銭負担は軽減されません。
リースバックにかかる主な費用は、「建物の売却時に発生する費用」と「建物の賃貸契約に発生する費用」に大別されます。
建物の売却時に発生する費用
建物の売却時に発生する費用は、売買代金によって変動しますが、主に印紙税、登録免許税、譲渡益課税の3つが発生します。
これらの費用は、売買契約の締結や登記手続き、売却益に対する課税などに関連しており、事前に把握しておくことで予期しない出費を防ぐことができます。
印紙税
不動産売買契約書には、売買代金に応じて印紙税が課されます。印紙税は、契約書に貼付する「収入印紙」で納付します。
印紙税の金額は売買代金によって異なり、概ね1〜3万円程度かかります。例えば、売買代金が4,000万円の場合、印紙税は1万円となります(令和9年3月31日までの軽減措置適用時、国税庁)。
登録免許税
住宅ローンが残っている場合、売却時に抵当権を抹消する必要があります。この手続きには、登録免許税が不動産1件につき1,000円かかります(法務局)。
例えば、土地と建物の2件を抹消する場合、登録免許税は合計2,000円となります。なお、その他の費用はケースによって異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
別途、司法書士に支払う手数料が別途、10,000~20,000円位掛かります。
譲渡益課税(収入金額と所有年数による)
購入した時より高く売却できた場合の不動産売却によって利益(譲渡益)が発生した場合、その利益に対して譲渡所得税が課されます。課税額は、所有期間によって異なる税率が適用されます。
【所有期間ごとの税率】
区分 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税(※) | 合計税率 |
短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
(※)復興特別所得税は、平成25年から令和19年(2037年)まで、所得税額の2.1%が上乗せされます。
参考元:国税庁「短期譲渡所得の税額の計算」「長期譲渡所得の税額の計算」
【譲渡益300万円の場合の税額例】
・短期譲渡所得(所有期間が5年以下)
→ 300万円 × 39.63% = 約119万円 の税金がかかります。
・長期譲渡所得(所有期間が5年超)
→ 300万円 × 20.315% = 約61万円 の税金がかかります。
建物の賃貸借契約に発生する費用
建物の賃貸借契約に発生する費用は、以下のようなものが挙げられます。
・敷金・礼金(それぞれ家賃の1〜2カ月分程度)
・家賃保証料(家賃の半月〜1カ月分程度)※賃料保証会社を利用する場合
・建物・家財の火災保険料(年間5,000〜6,000円程度)
また、敷金・礼金は不要とするリースバック会社や不動産会社もありますが、契約内容や会社ごとに異なります。
これらを踏まえ、リースバックでかかる費用の合計はケースバイケースですが、約定した月額賃料の2~3ヶ月分程度が一般的な例として挙げられます。
また、リースバックを利用する場合は、契約後に賃借人として毎月家賃を支払う必要があります。
リースバックの費用面でのメリット
リースバックには、費用面で大きなメリットがあります。
リースバックを利用することで、賃借人は建物を所有していたときに支払っていた以下のコストを削減することが可能です。
・住宅ローンの残債
・建物の火災保険料
・固定資産税
・建物のメンテナンス費用
また、賃借人は建物を売却してもそこに住み続けるため、引っ越し費用も発生しません。
所有権移転のための登記費用も、リースバック会社や不動産会社が負担するのが一般的です。
建物を売却し賃貸契約をした後、賃借人が毎月支払う主な費用は家賃です。ただし、契約内容によっては建物・家財保険料や共益費が追加で発生する場合もあります。
リースバック利用時に10〜20万円程度の初期費用がかかる場合でも、建物を所有していた場合に比べ、毎月のコストは大幅に抑えることができます。
まとめ
この記事では、リースバックにおける火災・損害保険の取り扱いについて解説しました。
火災・損害保険は、住まいの損害に備えるための保険です。万が一の火災や水災、事故などによる建物や家財の損害は、火災・損害保険により補償されます。
リースバックを利用した場合、保険料を支払って建物の火災・損害保険に加入するのは、その建物の所有者であるリースバック会社や不動産会社です。
したがって、その建物の元々の持ち主である賃借人は、それまで支払っていた火災・損害保険料の負担を抑えることができます。
リースバックには、火災・損害保険料の他にもローン残債や固定資産税、メンテナンス費用など、建物に関するコストを抑えられるなど、金銭的なメリットがあります。
持ち家の維持費負担にお悩みの方は、リースバックの利用を検討すると良いでしょう。
弁護士法人リーガル東京では、住まいのリースバックに関する相談を受け付けています。
住宅ローンや固定資産税など、住まいの金銭的負担にお悩みの方は、ぜひご相談ください。
不動産に特化した弁護士と税理士が連携し、適切なアドバイスやサポートを行います。
監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
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