リースバックで居住している家を退去する際に原状回復は必要?
賃貸物件に住んでいる場合、賃借人には退去時に原状回復義務が生じます。ただし、経年劣化や通常の使用による損耗は原状回復の対象外です。
では、売却した不動産に家賃を支払って住み続けるリースバックの場合、原状回復の取り扱いはどのようになるのでしょうか。
不動産の元所有者である賃借人に原状回復の義務は生じるのでしょうか。
今回は、リースバックにおける原状回復の取り扱いについて、わかりやすく解説します。
※ここでご紹介するのは、改正民法が適用される2020年4月1日以降に締結・更新された賃貸借契約の原状回復についてです。原状回復義務については、居住目的の賃貸借契約の説明になります。
2020年3月31日までに締結された契約については、改正前民法が適用され、取り扱いが異なることがあります。
原状回復とは
国土交通省のガイドラインでは、原状回復を次のように定義しています。
賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること |
(出典:国土交通省「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について」)
原状回復とは、賃借人の故意、過失、不注意、または通常を超える使用によって生じた建物の損傷を、元の状態に戻すことを指します。
多くの賃貸借契約では、原状回復にかかる費用は、通常損耗や経年劣化を除き、賃借人が負担するものとされています。
ただし、ここでいう「元の状態」とは、「賃貸借契約締結時の状態」を指すものではありません。
通常の使用による経年変化の範囲内の建物の損耗については、原状回復の対象から外れるとされています。
つまり、通常の使用の範囲を超えた建物の損耗を回復することが、賃借人の負う「原状回復義務」なのです。
原状回復費用は、賃借人が賃貸人に対し契約時に預けた敷金から差し引かれることが一般的です。
敷金が余った場合は返金されますが、足りない場合には、賃借人は追加で費用を支払う必要があります。
原状回復に当たらない内容
既にご紹介したとおり、通常の使用による経年変化の範囲内の建物の損耗については、賃借人に原状回復義務は生じません。
具体的には、次のようなケースが考えられます。
・家具の設置による、床・カーペットのへこみや設置跡
・畳の変色、フローリングの色落ち
・家電の後部壁面の黒ずみ
・エアコン設置の跡
・絵画・ポスターの貼付による跡
・クロスの変色
・画鋲・ピンの跡(下地ボードを張り替える必要がないもの)
・設備機器の故障(機器の寿命によるもの) など
(参照:国土交通省住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』)
上記のようなケースでは、賃借人に原状回復義務が生じることはありません。
原状回復に当たる内容
自身の故意や過失、不注意によって起こった建物の破損については、賃借人は原状回復義務を負うことになります。
具体的には次のようなケースが考えられます。
・家具の移動による引っ掛け傷
・不注意による畳やフローリングの変色
・壁や床の落書き
・タバコのヤニ跡や臭い
・クギやネジの跡(下地ボードを張り替える必要があるもの)
・クーラーの水漏れによる腐食
・ペットの飼育による傷や臭い
・不適切な手入れや用法違反による設備機器の毀損 など
(参照:国土交通省住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』)
上記のようなケースでは、原状回復の義務が生じるため、賃借人は状態を回復させるための費用を負担することになります。
リースバックで退去が発生するケース
リースバックの原状回復義務について解説する前に、リースバックにおいて退去が発生するケースについてご説明します。
リースバックで賃借人の退去が発生する主なケースとしては、次の3つが挙げられます。
賃貸借契約の満了時
リースバックでは、賃貸人と賃借人は賃貸借契約を交わします。
賃貸借契約には、賃借人が契約解除を申し出ない限り自動的に更新される「普通借家契約」と、あらかじめ契約期間が定められ、期間満了後に更新されない「定期借家契約」の2種類があります。
通常の賃貸借契約は「普通借家契約」が一般的ですが、リースバックの場合は「定期借家契約」を採用するケースが多くなっています。
このうち、契約期間が決まっている「定期借家契約」については、契約満了となった時には、再契約を締結しない限り、賃借人は対象の建物から退去することになります。
契約違反による強制退去
重大な賃貸借契約違反があった場合、賃貸人は強制的に賃借人を退去させることが可能です。
具体例としては、家賃の滞納や迷惑行為によるトラブル、ペット不可物件でのペット飼育、契約外の用途での使用などが考えられます。
これはリースバックでも同様で、重大な契約違反を起こした賃借人は、賃貸人によって、リースバック物件から退去させられることになります。
借主都合による契約解除
既に述べたとおり、「普通借家契約」では、基本的に契約は約定更新と法定更新があり、法定更新の場合は、自動的に更新されていきます。
契約が解除されるのは、賃借人が契約解除を申し出た時及び、賃貸人が正当事由をもって契約解除を求めた場合です。
具体的には、借主が新たな引越し先を見つけたり元自宅の買い戻しを諦めたりして、リースバック物件からの退去を申し出た場合が考えられます。
このように、「普通借家契約」のリースバックでは、借主都合の契約解除による退去も考えられます。
リースバックの退去時に原状回復は必要?
リースバックでは、退去時に原状回復が不要とされるケースもあります。これは、賃貸人であるリースバック業者が、物件を買い戻さない場合に建物を取り壊したりリノベーションをしたりする計画を持っていることが理由の一つです。
一方で、リースバックの契約後に賃借人が建物の価値を大きく変えるようなこと(間取りの変更など)を行った場合には、原状回復を求められる可能性があります。
このように、原状回復の必要性は契約内容や物件の利用方針によって異なるため、契約時には取り扱いをよく確認しておくことが大切です。
敷金の取り扱いはどうなる?
リースバックでは、賃貸借契約時に敷金を設定するケースが一般的です。敷金の相場は家賃の1~2か月分程度であり、これは退去時の未払い家賃や原状回復費用、不用品処分費用などに充当されるためです。
一方で、リースバックでは多くの場合、原状回復が不要とされるため、賃借人の退去時には敷金が全額戻ってくることもあります。ただし、家賃の滞納や契約内容に基づく費用が発生した場合には、敷金から差し引かれることがあります。
原状回復に必要な費用の相場
リースバックでは、原状回復が必要になるケースは少ないです。
しかし、万が一原状回復を求められた場合に備え、ここでは原状回復に必要な費用の相場を確認しておきましょう。
・壁紙の張り替え:1㎡あたり1,500円~
・壁や天井の傷補修(下地補修なし):1箇所につき15,000円〜
・フローリングの張り替え:1㎡あたり15,000円~
・畳の入替え:1畳あたり7,000円〜
・フローリングの傷やシミ:1箇所につき15,000円〜
・浴室のカビ取り:1式あたり15,000円〜
引用元:https://fudosan-archi.com/2020/04/10/restoration-cost/?utm_source=chatgpt.com
上記はあくまで目安です。
具体的な金額は状態や資材によっても異なるのでご注意ください。
まとめ
ご紹介したように、多くの賃貸借契約では、賃借人は退去時に物件の原状回復を求められます。
通常使用に伴う経年変化については原状回復の対象になりませんが、不注意による傷やシミを回復するには一定の費用がかかり、賃借人はこれを負担する必要があります。
しかしリースバックの場合、通常の賃貸物件とは異なり、原状回復を求められるケースは少ないです。
これは、リースバックの一つのメリットだといえるでしょう。
ただし、ケースごとに原状回復の取り扱いは異なります。
賃貸借契約締結時には、退去時に原状回復義務が生じるのかどうかをよく確認しておくようにしましょう。
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監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
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